ひげよさらば

『ひげよさらば』は1984年から1985年にかけてNHKで放映された人形劇です。Wiki - ひげよさらば
 当時私は幼稚園児でしたので、さすがにこの内容を理解することはできませんでした。しかしこの「ひげよさらば」という意味ありげな言葉、奇妙な猫たちの姿は印象に残っていました。

 最近(2009年)、ふと思い立って原作小説『ひげよ、さらば』を読みました。確かに…これは叙事詩的、ハードな物語です。記憶喪失の猫・ヨゴロウザが野良犬や野ねずみとの生存競争を生き抜くため、野良猫たちの団結をはかる物語です。物語は記憶喪失の為に「猫」では無いヨゴロウザが「猫」へと変貌する序盤を経て、とどまる事を許されずに変わり続けて行く姿が描かれています。衝撃のラストからして、間違いなく問題作です。私の感想はこのページの最後の方に。

 人形劇はだいぶ改変があるらしいのですが、この恐ろしくさえある物語をどう料理したのか、とても気になります。
 現在、全213話中の11話のみがDVD販売されているそうです(NHK人形劇クロニクルシリーズVol.7)。全部見たいところですが、今のところそれは叶わなそう。


 で、私の手もとにある『ひげよさらば』関連物はただひとつ。ぬりえです。
 ぬりえと言ってもB6版のペラペラの小冊子で、NHKが無料頒布したものと思われます。

表紙。クリックで拡大。
裏表紙。クリックで拡大。

 中身はこのようなもの(これで全部)。普通の紙(上質紙70kg程度)に片側ずつ印刷しています。
 絵って意外な感じ…。


 キャラクターを見ると、原作のこのキャラクターがこれだなとだいたいわかりますが、ハネカエリはかなりオリジナル? 星からきた猫は他にいるようですが、その要素がありそうなエキセントリックな容貌ですね。ところで、オモテカウラカ(原作ではかけごと猫)は随分おもしろい事になってるなあ。
 正直なところ、原作には「ここ、もっと広げられるのになあ」という部分が多数あります。「あれってどうなったの」というエピソードも多数ありましたし…、言いたい事もブレていると言えばブレている(連載作品だったので仕方ないのかな)。人形劇ではそんなところが整理され、一部詳しくなっているようで、例えば野ネズミの中でヨゴロウザに味方する、サグリなどがもっと活躍するようです。敵であるはずなのに、協力してくれる犬もいる? 面白そうです。

 裏表紙裏にはこのように、受信料が書いてありました。し、白黒テレビ。


 ところで、私は人からこの冊子をいただいたのですが、その人の入手方法はと言うと。ある日ゴミを捨てに行ったら、ゴミ捨て場の他のゴミ袋の上にこれが乗っかっていたのだそうです(素で、しかも2冊)。で、拾って帰ったと…。時期的にはもう放映がとっくに終わっていた頃のようです。謎だなあ。ま、とにかく拾ってもらって良かったです。 感謝。
 他に当時のグッズ類ではムック本があったとか。いいなあ見たいなあ。

 関係ありませんが、同い歳の友達と『ひげよさらば』の話をした時に、同時期の子供向け情報番組(もちろんNHK)『600 こちら情報部』の事を言ったら知らんと言われて驚きました。私はよく見ていました。ロクジローのノートがうちにあったはず。さすがにもう無いか…。



ひげよ、さらば』原作の読書感想。

 内容は、ヨゴロウザという記憶喪失の猫が、ナナツカマツカという丘で野良犬や野ねずみとの生存競争を生き抜くため、野良猫たちの団結をはかる物語です。ガンバみたいなのか、と言うとかなり違う様相。『ガンバの冒険』(原作は『冒険者たち』)ではガンバたちネズミは種という共同意識のもとに、当然のように助け合いました。しかし猫はそうはいかない…。
 ヨゴロウザは片目という猫に助けられ、彼の目指している猫の団結に向けて協力をします。他の猫たちが縄張りとともに持つ自己の世界、自己のルールに触れていくことで、それを失っているヨゴロウザは翻弄されます。ヨゴロウザは何かが違うと感じて誰の導きをも拒否し、立ち止まることを許されず、自己の変貌を否応なく突きつけられていきます。よりどころを持たぬまま独りで辿るその道の危うさ。去来する記憶をなくす前の自分らしき何者か、恐るべき犬たちの謀略、恩人である片目への疑念、狂気と支配(薬物中毒!)、本能に裏打ちされた火のような暴力と執念。結末は衝撃的です。何もかもが終わらないところは、この物語が「叙事詩」と言うべき要因でしょうか(良く言えば?)。わかる事もありわからない事もあり…ナナツカマツカの丘は今日もある。ヨゴロウザが最後に気付いた事は、今までの出来事の一部であり、それがまた全てだったでしょう。
 ところで『ひげよ、さらば』という言葉は何を示すのか。読後しばらく考えて、あっと思いました。そういうことか。以下、ネタバレですのでクリックで続きを表示します。

 中途半端になっている伏線があったりと、個人的には満点はつけられないものの、ザワザワするものは存分に含まれています。『チリンの鈴』のような感じもあり…。まずまずおすすめです。



(2009.8)